「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
私立リリアン女学園。
明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢さま学校である。
東京都下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる乙女の園。
時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、十八年通い続ければ温室育ちの純粋培養お嬢さまが箱入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている貫重な学園である。
〔引用〕 今野緒雪氏著/集英社コバルト文庫刊『マリア様がみてる』
24th Season ◆ 乙女は見つめ合う
「ごきげんよう、マリア様」
マリア様のお庭の乙女たちの一日は、門を入って並木道を通った先の分かれ道にいらっしゃるマリア様へのお祈りに始まってマリア様へのお祈りで終わる。
今日こそは素敵な上級生のお姉さまと運命の出会いが出来ますように――
どうか素敵なあの方が私を振り向いてくださいますように――
今日も一日穏やかに恙無く過ごすことが出来ました――
それぞれの想いを胸に乙女たちはマリア像の前を通り過ぎる。
入学から卒業までの三年間、いつくしみ深きマリア様の下で乙女たちはときめき、笑い、悩み、泣き、成長していく――