「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
私立リリアン女学園。
明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢さま学校である。
東京都下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる乙女の園。
時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、十八年通い続ければ温室育ちの純粋培養お嬢さまが箱入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている貫重な学園である。
〔引用〕 今野緒雪氏著/集英社コバルト文庫刊『マリア様がみてる』
Farewell Season ◆ 乙女は――
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
出逢いにときめく春 眩しくきらめく夏
高い空にさんざめく秋 せつなく白い冬
季節が巡り 必ず訪れる別れ―――
離れ離れになって 今は哀しくても
貴女に逢えて良かった―
逢えたのが貴女で良かった―
視線を、言葉を、微笑みを交わして行き交う乙女たち
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
そしてまた乙女たちは歩き始める――――――